現代社会は、その複雑性と流動性が増したことで、企業がこれまで経験したことのない変化に直面しています。経済のグローバル化が進む中で、ビジネスは新たな市場や競争に発展したのです。技術革新のスピードは驚くべき速さで増大し、それにより新たなビジネスチャンスが生まれる一方、古いビジネスモデルが脅かされることもあります。さらに、社会の価値観は多様化し、これにより企業の価値観を消費者や従業員、社会全体と調和させることが求められます。

このような環境下で、企業が長期的な成長を達成し続けるためには、その存在の正当性を表すビジョンや価値観を示すことがますます重要です。その正当性や価値観のことを企業の「パーパス」といい、企業の存在目的や意義を示すものとなっています。この記事では、パーパスの概念とその企業における重要性、そしてパーパスを企業に導入する方法について解説します。

パーパスについて詳しく知りたいという方はぜひこの記事を参考にしてみてください。

パーパスとは？

パーパスとは、企業が存在する理由や目的を意味する言葉で、企業の本質的な使命や存在理由のことです。これは単に金銭的な利益を追求するのではなく、企業がどのような価値を社会に提供し、その価値創造を持続的に行うかを明示します。パーパスは、企業の長期的な戦略やビジョンを形成する上で重要な役割を果たし、企業の行動と決定の原則を規定するのです。

パーパスの類義語の違い

ビジネスの文脈では、パーパスと似たような概念を表すために他の言葉がよく用いられます。これらには経営理念、企業理念、ミッション、バリュー、クレドなどがあります。これらの概念は一部共通していますが、それぞれに独自のニュアンスと特性があります。これらの違いを理解することで、パーパスの真の意味とその役割をより深く理解することができるでしょう。

経営理念との違い

経営理念とは、企業の方向性や追求すべき価値観を明確に示すもので、ビジネス活動の全体的な道しるべとなります。一方、パーパスは経営理念を具現化するための企業の根本的な存在理由や目的を示します。経営理念が企業の進むべき方向性を規定する一方で、パーパスはその経営理念を実現するための動力源となる企業の使命を規定します。

企業理念との違い

企業理念は、企業が社会に対して果たすべき役割や責任を明示するものです。一方で、パーパスは企業が存在する根本的な理由を強調し、その理由に従って行動することで企業理念を実現する道となります。

クレドとの違い

クレドは企業の信条や信念を表し、その行動指針となります。一方、パーパスとはその存在意義や目的のことで、企業の全体的な方向性を示すものです。パーパスは企業の行動の基準を示すだけでなく、その存在理由と目標も明確にします。

ミッションやバリューとの違い

ミッションは企業の使命を表し、バリューは企業が重視する価値観を表します。これらは企業の行動指針を定め、具体的な目標設定や戦略を形成するのに重要な役割を担っています。一方、パーパスはこれらを更に深いレベルで包含し、存在の根底にある目的と価値観を示して、その全体像を明確にします。

パーパスの派生語

パーパスという概念は広範であり、様々なビジネス戦略や活動を説明するための派生語を生み出しています。

パーパス経営

パーパス経営とは、企業の経営活動全体をパーパスに基づいて行うことを指すものです。これは企業が社会的な価値創造を追求し、その結果として経済的な利益を生み出す経営スタイルを指します。企業がその存在意義に基づいて製品やサービスを提供し、社会に対する貢献を通じてビジネスの成長と発展を図ることを意味します。

パーパスブランディング

パーパスブランディングとは、企業のブランド価値を向上させるためにそのパーパスを強調し、そのメッセージを広めるマーケティング手法のことです。企業の存在意義や価値観を消費者に明確に伝えることで、ブランドの信頼性や魅力を高め、顧客の認知と好意を引き寄せることができます。これにより、企業の製品やサービスが消費者の生活において果たす役割と価値を浸透させ、消費者との長期的な関係を築くことが可能となるのです。

パーパスドリブン

パーパスドリブンとは、パーパスに基づいて行動することです。企業の意思決定や行動がそのパーパスと一致していることを示すこの概念は、ビジネスの各段階で一貫性を保つための重要な指針となります。パーパスドリブンな組織は、その存在意義に根ざした戦略を採用し、その達成を通じて企業の成長を促進します。

パーパスステートメント

パーパスステートメントとは、企業のパーパスを明文化したもののことです。これは企業の存在意義や目的、そして社会的な価値を具体的に示すもので、企業の行動指針となります。パーパスステートメントは全社員が共有し、日々の業務を通じて具現化するべき目標となります。組織のビジョンを明示的に示すものであり、そのビジョンに基づいた行動を通じて、企業はその社会的な使命を達成しようと努力します。

このように、パーパスは企業が直面する現代の複雑でダイナミックなビジネス環境において、企業の中心的なガイドラインとなります。それは企業が長期的な成功を達成するための行動と戦略を形成するのに役立つでしょう。経済のグローバル化、技術の急速な進化、社会価値観の多様化が進む中で、企業はその存在意義と役割を明確にすることで、持続可能な成長と革新を追求する必要があります。

パーパスはいつから注目され始めた？

パーパスという概念自体は新しいものではありません。しかし、その意義と重要性は21世紀に入ってから特に注目されるようになりました。企業の社会的責任（CSR）や持続可能な開発（SDGs）への関心が高まる中で、企業の存在意義や価値観を示すパーパスが再注目されてきたのです。

それは企業が単に利益を追求するだけではなく、社会的な課題解決に貢献する存在であるべきという視点が広く共有されるようになったためです。

パーパスが注目され始めた背景

パーパスが再び脚光を浴びるようになった背景には、21世紀に入ってからの社会的な変化が大いに影響しています。

価値観が変わった

パーパスが注目され始めた1つ目の要素として、消費者や労働者の価値観が大きく変化したことが挙げられます。価格や品質だけでなく、企業の社会的な行動や姿勢も重視するようになったのです。特に若い世代では、自身の働く企業が社会的な価値を持つことや、社会問題解決に貢献する存在であることを重視する傾向が強く見られます。

これらの価値観の変化に対応するため、企業は単なる利益追求から一歩進んで社会的価値創造へとシフトする必要があります。パーパスを掲げることは、企業がこれらの新しい価値観に対応し、自社の存在意義を明確に示す重要な手段となります。

投資家の判断基準が変わった

現代の投資家は、単に企業の経済的な成果を評価するだけでなく、その社会的な影響力や組織のパーパスを考慮する傾向にあります。投資家の中には、企業の財務指標だけでなく、そのビジョンや価値観、そして社会的な責任を重視する人々が増えています。これは、ESG投資（Environment, Social, Governance：環境、社会、ガバナンス）の台頭が象徴しています。

ESG投資は、企業が利益を追求するだけでなく、環境保全、社会貢献、優れた企業統治を適切にバランスさせているかを評価するのです。したがって、企業が明確で信頼できるパーパスを持っていると、投資家にとって魅力的な投資先となり得ます。パーパスを掲げることで企業の信頼性を高め、その結果として企業価値の向上につながるのです。

DX化が推進され始めた

デジタルトランスフォーメーション（DX）の時代において、企業は事業モデルや組織構造を大きく見直し、その変革を進めることが求められています。この変革の中で、企業のパーパスは極めて重要な役割を果たすでしょう。

パーパスは組織のコア価値や目指すべきビジョンを示し、それが変革のエネルギーとなり、組織の方向性を定める羅針盤となります。パーパスに基づいたDXは、ビジネスプロセスを最適化し、顧客体験を向上させるだけでなく、社会全体に対するポジティブな影響をもたらすでしょう。

消費志向が変化した

現代の消費者は、単に商品やサービスの品質や価格に焦点を当てるだけでなく、その背後にある企業の価値観や社会的な影響を重視しています。その製造プロセス、企業の社会貢献度、環境への影響など、より広範で深い視点から製品やサービスを評価する消費者が増えているのです。

企業のパーパスが明確だと、消費者はその企業やブランドに対する信頼感を抱きやすくなります。このように消費者が新たな意識や行動パターンに対応することで、企業はブランドの価値を高め、ロイヤルカスタマーを増やし、さらなる事業成長を実現することができるのです。

パーパスを掲げるメリット

パーパスは経営の道しるべとなり、企業の成長と社会貢献を促進します。それは投資家と消費者の信頼を築き、社員のモチベーションとロイヤリティを向上させます。パーパスを掲げることで、企業は自己の存在意義を確認し、その方向性を明確にすることができるでしょう。

経営の指針となる

企業のパーパスは、その経営の指針となります。特に、複雑化するビジネス環境の中で、企業が直面するさまざまな課題や意思決定に対する一貫した行動の基準となります。パーパスは企業のビジョンやミッションを形成し、それが組織全体の行動と意思決定をガイドします。これにより、企業は混乱することなく、一貫性と連続性を保った経営が可能です。

ステークホルダーからの指示を得やすい

パーパスは企業とステークホルダー（投資家、従業員、顧客、地域社会等）との間の信頼関係を深める重要な要素です。企業が明確なパーパスを持ち、それを実践することで、ステークホルダーからの支持や信頼を獲得することができます。特に、パーパスが社会的な価値創造に重点を置いている場合、ステークホルダーはその企業をより強く支持する可能性があります。

社員のロイヤリティが高まる

企業のパーパスは、社員のエンゲージメントやロイヤリティを高める役割も果たします。社員が自分が働く企業が社会的な価値を追求していると感じ、そのビジョンに共感すると、より一体感を感じ、ロイヤリティが高まるでしょう。これは社員の満足度の向上、生産性の向上、そして離職率の低下につながり、結果として企業全体のパフォーマンスを向上させます。

持続可能な開発ができるようになる

パーパスを掲げることは、企業が持続可能な開発に貢献する一助となります。企業が社会的な課題解決を目指すパーパスを設定することで、持続可能な開発目標（SDGs）等の国際的な課題解決に対する貢献が期待されます。企業が長期的なビジネスの成長と繁栄を保証するためには、社会と環境の健全性が不可欠なのです。

パーパスの策定手順

パーパスの策定は、自社の存在理由と目指すべき価値の深い考察から始まります。これを具現化したパーパスステートメントを作成し、全体の行動に反映させます。その実行状況を定期的に評価し、必要に応じて見直しましょう。

ここからは、パーパスの策定方法について解説していきます。

1.パーパスを明確にする

パーパスの策定は、まず企業が存在する理由や目指すべき価値を深く考えることから始まります。これは社会的な課題や、自社の強みや可能性を認識し、それに基づいて企業が目指すべき方向性を明確にする作業です。この過程では、多角的な視点からの意見や洞察を集めるために、経営陣だけでなく、従業員、顧客、投資家などのステークホルダーからのフィードバックも積極的に求めることが重要です。

2.パーパスステートメントを作成する

次に、明確にしたパーパスを具体的な言葉で表現します。これがパーパスステートメントです。パーパスステートメントは、企業の行動基準となる重要な宣言で、全てのステークホルダーに対して企業の存在意義と方向性を明示します。パーパスステートメントの作成の際は、明瞭で、簡潔で、理解しやすい言葉を使うことが重要です。

3.パーパスステートメントを実行・評価する

パーパスステートメントを作成したら、それを具現化するための行動を企業全体で展開します。そして、その実行状況を定期的に評価し、必要に応じて見直しましょう。パーパスの具現化には、具体的な戦略と行動計画が必要です。これは、企業の各部門や業務で、パーパスに直結した具体的な目標を設定し、それを達成するための活動を定義することを含みます。

4.業務で取り入れられるような工夫をする

パーパスステートメントを日々の業務に取り入れ、具現化するための工夫が必要です。これは、パーパスに基づく業務の見直しやパーパスに関する教育、コミュニケーションの強化などが考えられます。例えば、組織内の意思決定プロセスにパーパスを組み込む、パーパスに関連する成果を評価するパフォーマンス指標を設定する、または社内イベントやコミュニケーションの場でパーパスを強調するなどの取り組みがあります。

パーパスを策定する際のポイント

パーパス策定の際は、言葉の明確さ、実現可能性、社会的意義が重要です。また、企業活動に一貫性を持ち、多くのステークホルダーが理解し共感できるものかつ社会全体への貢献を目指すものであるべきです。

ここからは、パーパスを策定する際のポイントについて解説していきます。

わかりやすい簡単な言葉か

パーパスステートメントは、わかりやすく簡潔な言葉で表現されるべきです。パーパスステートメントは多くのステークホルダーが理解し、共感できる内容でなければなりません。複雑な業界用語や専門用語を避け、誰でも理解できる一般的な言葉を使用することが望ましいです。

自社の活動との一貫性や実現可能性があるか

パーパスは、企業の活動と深く関連していなければなりません。また、その実現は企業の能力範囲内にあることが求められます。実際の経営活動とパーパスの間に一貫性がなければなりません。適用不能な抽象的な理想よりも、現実的で達成可能な目標を掲げることが重要です。

企業の成長や社員のやる気につながるか

パーパスは、企業の長期的な成長をサポートし、社員のモチベーションを高める要素となります。パーパスに共感することで、社員のやる気や創造性が引き出され、組織全体が一体となって目標達成に向かうことが期待されるでしょう。パーパスは個々の社員が自身の仕事に対する価値と意味を見つける手助けをするとともに、組織全体としての一体感を醸成し、高いパフォーマンスを実現する基盤を提供します。

社会的意義や社会貢献があるか

パーパスは単に企業の利益を追求するものではなく、社会的な意義を持つべきです。社会全体への貢献、地球環境の保全など、広い視点から見てその企業の存在が正当化されるような価値観を内包していることが重要です。企業のパーパスが社会的な課題の解決に向けられている場合、その企業の存在意義はさらに強化され、長期的な成功の可能性が増します。

まとめ

パーパスは企業の存在意義と方向性を示す重要な要素で、これからの時代においてますます重要性が増しています。パーパスを明確にし、それを元にしたパーパスステートメントの策定と具現化によって、企業は社員のモチベーション向上、ステークホルダーとの良好な関係構築、持続可能な社会への貢献など、多方面でのメリットを享受することが可能となります。

この記事を参考に、ぜひ自社のパーパス策定に取り組み、その価値を体感してみてください。パーパスの力を活用して、企業の長期的な成功と社会への貢献を実現しましょう。